活動レポート
2022.08.15イベント・講演

【イベントレポート】 医療的ケア児を育てる家族の現状と課題 そして、私たちにできること

NPO法人キープ・ママ・スマイリングでは、病気の子どもとそのご家族を応援するキャンペーン「Smiling Family Day~笑顔がつながる日。」(実施期間:2022年5月8日〜6月19日)期間中のイベントとして、6月4日に北千住マルイで「トークショー&ミニライブ 〜音楽のチカラで病気の子どもを育てる家族を元気に!」を開催しました。

トークショーでは、全国医療的ケアライン代表の宮副和歩さんと一般社団法人mogmog engine代表の加藤さくらさんをゲストにお招きし「医療的ケア児※」と呼ばれる子どもたちの子育てについてお話を伺いました。そのトークショーのダイジェスト版をお届けします。
 
※医療的ケア児:人工呼吸器や胃ろうなどを使用し、痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な子どもたちのこと。

(写真左から)加藤さくらさん、宮副和歩さん、光原ゆき(キープ・ママ・スマイリング理事長)

多くの人に医療的ケア児の存在と現状を知ってほしい

光原 一般の方の中には、病気や障害を持った子どもを育てるご家族が身近にいたとき、どのようなサポートができるだろうか、どんな言葉をかけたらいいだろうかと迷うことがあると思います。
 
今日は、医療的ケア児と呼ばれるお子さんを育てるお母さまたちに子育ての様子を伺いながら、私たちがどのようなサポートができるのかを一緒に考えていきたいと思います。
 
宮副 私の子どもを含め、全国で「医療的ケア児」と呼ばれる子どもたちは約2万人いるといわれています。病院から退院して家に帰り、家族で一緒に暮らすことができるようになったのに、保育園に入れなかったり、学校に行けなかったり、あるいは学校を卒業したら行く場所がないといった子どもたちがたくさんいます。
 
まずは、そういう子どもたちの現状を知っていただき、どうすれば日常生活の問題が解決していくかを社会全体で考えてほしいと思っています。そのために全国の医療的ケア児の親や支援者が集まれるネットワーク組織「全国医療的ケアライン」を立ち上げて、その代表を務めています。

宮副和歩(みやぞえ・かずほ)
二男の母。次男が3歳のときに重度の気管軟化症と診断され、人工呼吸器を使用する”医療的ケア児”となった。子どもを介護する中で、地域での受け入れ先があまりにも少ない現実を実感し、2017年「板橋区医療的ケア児親の会」を立ち上げ、母子の孤立予防と行政へのアプローチを始めた。2019年、『東京都医療的ケア児者親の会』の設立と同時に参加し、現在は副代表を務める。また、2022年3月に各都道府県の家族会をつなぐネットワーク『全国医療的ケアライン(アイライン)』が発足すると、その代表に就任。全国各地の当事者や家族の声を広く届けていくことで、病気や障害、医療的ケアの有無に関係なく、一人ひとりが自分の人生を選び、歩んでいけるような社会づくりを目指している。

加藤 私には子どもが2人いますが、下の子が先天性福山型筋ジストロフィーという筋疾患です。進行性の難病で、徐々に筋力が低下していくため、「摂食嚥下障害」といって噛む力や飲み込む力も弱くなり、食事にも影響が出てきます。でも、こんな状態になっても、食事は一日3回する大事なことなので、その楽しみを奪いたくない、どうにか工夫して楽しんで生きていけないかという思いで、食事支援が必要な子どもたちとその家族のためのオンライン・コミュニティを作りました。
 
このコミュニティを作る際、当事者のママたちが「スナックのママをやってみたい!」と言い出し、「スナック都ろ美(とろみ)」と名付けました。ここには、設立にかかわった親たちの「みんながフラッと気軽に立ち寄れる、悩み事などを吐き出す場を作りたい」という願いも込められています。仮想スナックですが、食事支援が必要な子どもの親御さんにとってオアシスのような場所、みんなで困り事を解決していける場所となるよう、さまざまなイベントや情報発信をしています。

加藤さくら(かとう・さくら)
二女の母。福山型先天性筋ジストロフィーを患う次女を育てる。「障害がある子どもが生まれても誰も絶望しない世の中」にするため、さまざまなプロジェクトを立ち上げ、活動している。その一つである一般社団法人 mogmog engine では摂食嚥下障害がある子どもとその家族のコミュニティ『スナック都ろ美(とろみ)』を運営している。著書『えがおの宝物 – 進行する病気の娘が教えてくれた「人生で一番大切なこと」』(光文社刊)

医療的ケア児を地域の一員として受け入れてほしい

光原 一般の方々に医療的ケア児のどんなことを知ってもらいたいですか。
 
宮副 医療的ケア児の家庭では、本来は病院で医師や看護師が行うはずの医療行為を、自宅で家族が行っています。例えば、私の次男は自宅で使えるような小さな人工呼吸器を使って生活しています。
 
また、「胃ろう」といって、お腹に穴を開けて直接栄養を体に入れることで、毎日元気に特別支援学校に通えています。医療の力を借りることで、成長・発達もできる、希望を持ちながら過ごしているということも知っていただけたらと思います。

そして、みなさんに理解していただくことで、こうした子どもたちが街中にいても不思議じゃない世の中にしていきたいと思っています。
 
一般の人が医療的ケア児やその家族と出会ったとき、日常で知り合う人と同じように、お互いにこういう人なんだね、こういうことが必要なんだね、じゃあ何か手伝おうか、一緒に遊ぼうかなど、普通の過ごし方、普通の出会い方をしていけるのが理想的だと思っています。
 
なかには「医療的ケアが必要なのだから、そういう子どもたちは病院の中にいたほうが安心じゃないの」と考える人もいらっしゃると思いますが、医療的ケア児と呼ばれる子どもたちを地域の一員として受け入れていただけると嬉しいです。
 
加藤 医療的ケア児のお子さんの中には、小さいときから飲み込み機能が未発達な子、うちの子どものように飲み込み機能が低下してくる子がいて、工夫しなければ食事を摂れない場合があります。例えば、うちの子どもは口から食べることができますが、口から十分に食べられないときは体内に栄養を直接注入して元気を保てるよう胃ろうも作っていてハイブリット型で生きています。
 
胃ろうのほか、経管栄養といって鼻から胃にチューブを通して栄養を摂る子もいます。これらの方法を知らない方は、外食先で鼻や胃から食事をとるのを見てビックリされますが、医療的ケア児の子どもの食事のかたち、モグモグの方法はいろいろあることをぜひ知っていただきたいです。

「どうしたら実現できるか」みんなで一緒に考えてほしい

光原 日常生活を送る中で、どんなことがハードルになっていますか。
 
宮副 うちは痰を吸引するための吸引器や呼吸を助ける人工呼吸器を持って出かけるので、外出時の荷物がとても多いです。お子さんによっては呼吸器に送られる空気を加湿するための加温加湿器、注入スピードを制御するためのポンプも持っていかなければならないことがあります。なので、荷物の準備だけでも30分〜1時間かかります。さらに、今日のように北千住に行きましょうとなると、このルートにすればなんとか車椅子が通れるかなとか、行程をシミュレーションする必要があり、事前の準備もすごく大変です。外出だけでなく、日常生活一つひとつのハードルは結構高いです。
 
加藤 東京・日本橋に「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」という画期的なレストランがあります。摂食嚥下障害の子どもたちは、外食する際、食材を刻むためのミキサーのほか、緊張が強く噛み込む癖がある子どもはシリコンスプーンでないと食事ができないため、専用のカラトリーを持ち歩かなければなりません。しかし、このカフェはそうした器具やカラトリーを店内に用意してくれていて、手ぶらで行ってもすぐに食事ができるので、気楽に外食が実現するんです。
 
私たち当事者の親も困った、困ったというだけでなく、それがどうしたら解決するのかを提案し、実現していくことを一緒に考えてもらえるように社会に働きかけていくことで、医療的ケア児の子どもとその家族が暮らしやすい世の中になっていくのではないかと思います。
 
資金面はもちろん、飲み込み機能に障害がある人に食事を提供してリスクを取りたくないというのが外食産業の本音だと思いますし、摂食嚥下障害の子どもたちのことはよくわからないからやらないという選択するお店も多いです。それは仕方ないです。ただ、最初から100%は目指しておらず、スモールステップを踏んでいきたいと思っているので、「どういう形ならできるだろう」と一緒に考えていただけると嬉しいです。
 
宮副 学齢期になれば学校に行くことが当たり前だと思われていますが、医療的ケア児はその当たり前のことができない、親が同伴して面倒をみなければ学校にも行けないというお子さんもまだまだ多いです。
 
このような環境を変えていくためには、医療的ケア児の困り事を共有して行政に伝えていくことが必要です。また、すぐに変えられなくても、親同士がつながり「こういう工夫をしているよ」と知恵を出し合うことで問題を解決していくことも可能です。そのようなことができたらいいなと考え、各都道府県に家族会を作りました。そして、一つの都道府県にとどまらず、全国でつながることを目的に「全国医療的ケアライン(アイライン)」も結成しました。仲間は全国にいますので、医療的ケア児のご家族は、一人で悩まず、安心して頼ってほしいと思います。

付き添い生活は災害キャンプで過ごしているような日々

光原 お二人ともお子さんの入院に付き添ったご経験があると思いますが、大変だったことなど、付き添いのエピソードを教えていただけますか?
 
加藤 娘が小さい頃は、保育園で感染症にかかり、よく入院していました。それは仕方がないと思っていましたが、それが数か月に一度やってくるのは本当に大変でした。急に入院するとなると、ほかのきょうだいたちも親から離れて祖父母のところに預けられる生活が突然始まるわけです。入院する娘だけでなく、きょうだいのケアも必要でした。
 
仕事もしていたので、急に休むと同僚に迷惑をかけることにもなる。とにかく入院は急に始まるので、何もかも急ごしらえ。付き添い中はお風呂にも入れず、例えるなら災害キャンプで過ごしているようでした。
 
宮副 うちも同じ状況です。きょうだいのケアは本当に難しいです。そして、付き添い中は親自身の健康管理が一番大変です。子どもは治療が進んでいくとどんどんよくなりますが、反対に親のほうは目に見えて体調が悪くなっていきます。食事、入浴、睡眠といった健康を維持するための基本的な生活が保障されることもなく、トイレに行くのも何分以内にお願いしますと看護師から言われるような環境の中で、子どもの入院が長引き、何か月、何年と、こうした生活を強いられるのは、子どものためとはいえ親が心身ともに疲弊してしまう。これでよいのか考えてほしいです。
 
光原 苦しい治療を頑張っている我が子の姿を見て一番大変なのは誰なのか、お母さんたちはよくわかっているから、自分の栄養や睡眠が足りていなくてもなかなか不満は言えないです。なかには、自分がひどい環境に置かれていることを気づかないお母さんもいます。
 
とはいっても、食べられない、眠れないといった日々が長期化すると、やっぱり体を壊してしまうし、心も疲れてきて孤独感が増していきます。ケアする人をケアすることは、本当に大事です。会場の皆さんの周りにも、そういうお友達がいたら、美味しいものを差し入れたり、「何かできることある?」と一言かけてたりしてほしいと思います。「私は一人じゃない」ときっと励まされますから。
 
宮副さん、加藤さん、本日は医療的ケア児とそのご家族の現状や課題を教えていただき、ありがとうございました。お二人の思いはきっと伝わったと思います。私たちにできることはまずは現状を知り、相手の困っていることを察し、「どうしたらいいのか」を一緒に考えていくことだとよくわかりました。

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