6月1日、国などの動きを解説する報告会を開催
キープ・ママ・スマイリングは、ちょうどこの1年前の2023年6月1日に「付き添い生活実態調査2022」概要の記者発表を行い、国へ要望書を提出しました。そこから付き添い環境改善をめぐって、実にさまざまな動きがありました。
この1年間の国(こども家庭庁、厚生労働省)の動き、国が提示した改善策、これらに伴う小児医療関係学会の動きや見解を解説するとともに、それぞれができることについて考える場を設けました。アーカイブはありませんが、内容が近いものをメルマガとして配信しましたので、こちらに掲載いたします。ぜひご覧ください。
【号外】ここまできた・これからどうなる?付き添い環境改善への取り組み
2023年6月、認定NPO法人キープ・ママ・スマイリング(理事長・光原ゆき 以下、KMS )は、国(こども家庭庁、厚生労働省)に対して大規模実態調査を通して明らかになった付き添い当事者の切実な声を「要望書」にして届けました。
これを受け、各省庁では課題解決に向けての検討を開始し、この春から付き添い環境の改善に乗り出しています。
メルマガ号外では、こうした国をはじめ小児医療界の動きを整理しつつ、この課題解決を強く望む私たちは、次にどのようなことにチャレンジしていくのかお伝えしたいと思います。
とても長い文章ですが、どうか最後までお付き合いください。
(文責:認定NPO法人キープ・ママ・スマイリング理事/医療ライター 渡辺千鶴)
【2】こども家庭庁の動き
【3】日本小児科学会の動き
【4】小児科・小児病棟の現状
【5】私たちにできること
【1】厚生労働省の動き
「令和6年度診療報酬改定」で付き添い者の3大困り事に対応
厚生労働省は、「令和6年度診療報酬改定」(※)を通して、付き添い者の3大困り事である「食事・睡眠・見守り」の状況を解決するための対策に取り組んでいます。
具体的に示すと、夜間を含め複数名の保育士や看護補助者を病棟に配置した場合、その報酬が医療機関に追加で支払われるようになるため、付き添い者の見守り支援や負担軽減につながることが見込まれます。
また、小児入院医療管理料を算定する医療機関には、付き添い者の食事や睡眠環境等の付き添い環境に配慮することが規定されました。これにより食事や睡眠環境などの改善に取り組む医療機関が増えることが期待されます。
そして、これらの報酬を改定する際に基本となったのが「入院中であっても子どもの成長・発達に対する支援が行われ、かつ希望によって家族等が子どもに付き添う場合に家族等に過度な負担がかからない医療機関の体制を確保する」という考え方です。
この方針は、小児の入院医療のあり方にパラダイムシフトをもたらすものであるといっても過言ではありません。
※診療報酬改定とは、保険診療を行っている医療機関に支払われる医療費の公定価格のこと。2年に1回、その価格や項目、算定要件等の見直しが行われる。
▼「令和6年診療報酬改定」の詳細はこちらから
【2】こども家庭庁の動き
病院実態調査をもとに好事例集を作成
診療報酬改定と連動した活用に期待
こども家庭庁では、KMSが要望書を提出した翌日(6月2日)に小倉将信こども政策担当大臣(当時)が記者会見で
「病気の子どもや家族が安心して入院生活を送ることのできる環境整備は重要な課題」との考え方を示し、
「厚生労働省と連携し、付き添い入院の負担軽減に向け、令和5年度中に小児の医療機関を対象とした実態調査を行う」と明らかにしました。
そして『令和5年度こども・子育て支援推進調査研究事業』において、付き添い環境の改善を検討する際、参考となる資料を作成することを目的に「入院中のこどもへの家族等の付添いに関する病院実態調査」が実施されました。
また、この調査に伴い、患者支援団体や小児医療関係者などで構成される有識者検討会が開催され、課題の整理や付き添い環境改善に向けた取り組み・工夫のあり方などが話し合われました。
この検討会には理事長の光原ゆきが患者委員として参加し、KMS政策提言・施策立案チームがサポートしつつ、付き添い当事者の意見を代弁しました。
なお、この実態調査で行われた医療機関アンケートの有効回答率は46.5%(n=349/751)でした。
厚生労働省が令和3年(2021年)に実施した「入院患者の家族等による付添いに関する実態調査」の有効回答率29.7%(n=89/300)と比較すると、今回は多くの医療機関が国の調査に協力したことがうかがえます。
同時に、この事業では実態調査をもとに好事例を収集し「入院中のこどもへの付添い等に関する医療機関の取組充実のための事例集」も作成されました。
この事例集は、医療機関が付き添い・面会環境に配慮したり、サポートの充実に取り組んだりする際に参考にしてもらうことを目的としています。
診療報酬改定で規定された「食事と睡眠環境等の付き添い環境への配慮」に積極的に取り組む医療機関が増えるよう、この事例集が大いに活用されることを望みます。
また、この事例集においても「親に付き添ってもらうことは子どもの権利である」という考え方を示した『病院のこども憲章』(EACH)や『医療における子ども憲章』(日本小児科学会)が紹介され、この権利を含め、医療機関は病気の子どもの権利を擁護することが重要であると指摘されています。
先に紹介した厚生労働省の考え方を含め、これら国の指針が出たことで、私たちKMSが目指している‟子どもと家族をまんなか”にした入院環境・付き添い環境改善の新しい扉がようやく開かれようとしています。
▼令和5年度子ども子育て支援推進調査研究事業の詳細はこちらから
【3】日本小児科学会の動き
WGを設置して付き添いの課題を議論
まもなく小児医療関係者の見解が発表
日本小児科学会では、約1年前から付き添いの課題に取り組み始めています。
2023年4月に開催された第126回日本小児科学会学術集会小児医療委員会において委員の一人から付き添いの課題に関する議論の提案があり、担当理事を中心にワーキング・グループ(WG)設置の検討を始めていた最中、
KMSが大規模実態調査の公表および国への要望書の提出を行い、日本小児科学会もすみやかに「入院しているこどもの家族の付添いに関する課題を検討するWG」を設置しました。
そして、このWGには看護師の代表も加わり、小児医療関係者で付添いに関する議論が重ねられてきました。
ここでの議論は「入院しているこどもの家族の付き添いに関する見解」としてまとめられ、その最終案が今年4月に開催された第127回日本小児科学会学術集会の分野別シンポジウム3「入院しているこどもの家族の付き添いに関する課題に対して小児科学会はどう取り組むか?」において公表されました。
これから理事会での審議等を経て、見解は一般に公表される予定です。
これにより小児医療関係者(小児科医、小児看護師)の付き添いに対する統一した考え方が示されることになります。
【4】小児科・小児病棟の現状
厳しい財政とマンパワー不足の中
付き添い環境改善への対応は不透明
この春、付き添いに関する国の方針や対策が示されたことから、第127回日本小児科学会学術集会では分野別シンポジウムのほか、小児科学会会長の基調講演やこども家庭庁母子保健課長の講演でも付き添いの課題について触れられました。
小児医療を率いるリーダーたちの発言に「付き添い環境の改善」がようやく重要な課題として認められたことを実感しました。
同時に、これらの講演やシンポジウムの質疑応答の中で現場の小児科医たちが繰り返し指摘していたのが「財源不足・マンパワー不足」です。
「環境整備は大事だけれど、家族にケアをサポートしてもらわなければ小児医療を守れない、そもそもの問題を解決する必要がある」といった要望が多く出されました。
さまざまな看護研究により子どものケアは大人よりも何倍も手間がかかることがわかっています。
にもかかわらず、小児病棟に配置される看護師の人数やケアの報酬は成人病棟と同じです。
看護補助者の配置や報酬には、今回(令和6年度)の診療報酬改定まで小児病棟では手当されていなかったため、今も看護補助者がいない小児病棟はたくさんあります。
そのため、家族が付き添い、世話や見守りを手伝わないとケアの手が足りず、医療を安全に行えない状況が常態化しているのです。
また、少子化により患児数が減少する中、小児医療に支払われる診療報酬は低く抑えられ、病院経営において小児科は不採算部門に位置づけられています。
このような厳しい財政と人手不足の中、医療機関が付き添い環境の改善にどこまで対応できるのかは甚だ不透明です。
診療報酬改定で小児入院医療管理料を算定する医療機関に求められる「付き添い環境への配慮」に対する財源は小児入院医療管理料の中で賄わねばならず、経営難となっている小児科の大きな負担となり、小児医療から撤退する医療機関が出てくることも心配されています。
【5】私たちにできること
医療機関の負担を減らすべく、
小児病棟を応援するキャンペーンを
当事者の切実な声が国を動かし、対策が行われて医療機関にバトンが渡されたのに、このままでは付き添い環境の改善が進まず、病児も家族も安心して入院できない――。
このような危機感から、KMSは医療機関の負担を減らすべく、小児病棟を応援するキャンペーンを行うことを決めました。
ご存じのかたも多いと思いますが、KMSでは入院児の付き添いは社会的課題であることを広く認識してもらうために2021年より年1回、母の日から父の日までの5週間にわたり、啓発キャンペーン「Smiling Family Days」を展開しています。
今年は「#みんなで小児病棟を支えよう」をキャンペーンテーマに掲げ、困難を抱えながらも付き添い環境改善に取り組む医療機関を全力で応援します。
子どもの突然の入院はどの子にも起こりうることです。付き添い環境の改善は医療機関だけで対応できる課題ではありません。
社会で病気の子どもとその家族、そして地域の医療資源としてなくてはならない小児科も支えられる仕組みをつくることが不可欠なのです。
本キャンペーンの目玉企画は「付き添い者の環境改善に取り組む小児病棟を支えよう!」プロジェクトです。
クラウドファンディングによる寄付金を原資に「食事・睡眠・見守り」の環境改善に取り組む医療機関に30万円分の物品等の支援を行います。寄付の呼びかけは、一般の方だけでなく企業を対象とすることも検討しています。
このプロジェクトを通し、付き添い環境の改善に取り組む医療機関(小児病棟)を社会で応援するムーブメントを起こし、民間から小児科への資金調達(寄付)の流れを作っていくことにもチャレンジしたいと考えています。
新たなステージに入ったキープ・ママ・スマイリングの活動を、これからもぜひ応援してください。
<参考資料>———————————–
●厚生労働省HP「令和6年度診療報酬改定について/Ⅲ-4-2 小児医療・周産期医療の充実⑩ 小児入院医療管理料における保育士・看護補助者の評価の新設」
●野村総合研究所HP
「入院中のこどもへの家族等の付添いに関する病院実態調査報告書」
「入院中のこどもへの付添い等に関する医療機関の取組充実のための事例集」
●厚生労働省HP
「入院患者の家族等による付添いに関する実態調査等一式 最終報告書」
●第127回日本小児科学会学術集会
基調講演「これからの小児科医の役割と学会の取り組み」
岡 明(埼玉県立小児医療センター)
特別企画3「こども家庭庁と小児保健・医療」
こども家庭庁の創設と母子保健行政の最近の動向について
木庭 愛(こども家庭庁成育局母子保健課)
分野別シンポジウム3
「入院しているこどもの家族の付き添いに関する課題に対して小児科学会はどう取り組むか?」
日本小児科学会WGによる入院しているこどもの家族の付き添いに関する提案
是松聖悟(埼玉医科大学総合医療センター小児科)
●「小児患者に要する看護時間と適正人員配置に関する研究」
伊藤龍子 小児保健研究第66巻第6号2007