活動レポート
2022.09.23イベント・講演

【開催レポート・後編】医療者とNPOのよりよい協働を目指して~互いを理解することからその一歩が始まる~

NPO法人キープ・ママ・スマイリングは、病気の子どもとそのご家族を応援するキャンペーン「Smiling Family Days~笑顔がつながる日。」(実施期間:2022年5月8日〜6月19日)の期間中の5月22日、「NPO・地域の力を活用して病気の子どもとその家族をもっと笑顔に!」と題し、医療機関とNPOの協働について考えるオンラインシンポジウムを開催しました。
 
小児病棟のマンパワーや財源に限りがある中、いかに患者支援団体や地域と協働して、入院中の子どもとそのご家族をサポートしていくのか――。NPOとの協働に取り組む成田赤十字病院の医師・寺田和樹さんと聖路加国際病院のチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)・三浦絵莉子さんを演者にお迎えしたシンポジウムの第2部・パネルディスカッションの模様をダイジェスト版でお届けします。
 
第1部(パネリスト発表)の模様はこちらをご覧ください。

<第2部・パネルディスカッションより>

スモールステップの積み重ねで信頼関係を育んでいく

第2部では、参加者からの質問に答えるかたちでパネルディスカッションが行われました。モデレーターとしてキープ・ママ・スマイリングの理事長・光原ゆきも加わり、患者支援団体(以下、支援団体)の立場から発言させていただきました。
 
光原 最初の質問は支援団体の方から団体の信頼性に関するお尋ねです。「ガードの固い病院が新しい支援団体の活動を受け入れる際、団体の信頼性をどのような点から判断していますか」。
 
寺田 病院という安全性を重視する場所に物や人、支援を入れるのは、前例がないと非常に難しいと思います。当院で行っている支援活動は、ほとんど私からお声がけしたものですが、支援団体のホームページで活動内容や実績、どのような想いで活動されているのかという点を主に確認させていただいています。
 
三浦 私たちも、支援団体のホームページで活動内容や組織の母体、これまでにどのような活動を行ってきたのかということを確認しています。そのうえで直接お話をして当院の取り決めなどをお伝えしています。当院では「子どもの写真は撮らないでください」、「院内の様子はSNSにアップしないでください」といった厳しめのルールを設けており、それが信頼性を判断する一つのスクリーニングになっているのではないかとも思います。
 
光原 ホームページはよく見られているのですね。支援団体側は信頼を得るうえでも情報発信の努力をすることが大事だということがよくわかりました。次も支援団体の方からのご質問です。「小児科の先生には活動を理解していただけても、病院との調整が必要になった途端に話が通らなくなることがあります。病院側に活動を理解してもらうために、どのような工夫ができるのでしょうか」。
 
寺田 病院は患者さんを守るためにガードが非常に固いので、なぜその支援が必要なのかということを“医学的”に理解してもらわなければなりません。例えば、院内決裁のための企画書には支援の目的をしっかり書きますが、その際にも長期入院が患者さんに与える弊害を医学的に示し、この支援は患者さんにとって治療の一環だと説明します。病院側がピアサポートの必要性を納得できるようなかたちで伝えるために、小児科医と相談しながら「趣意書」などの文書にまとめ、提出していただくのがよいのではないかと思います。
 
光原 院内で相談していただく際には、支援の目的が言語化されていて、資料にまとめられていることが重要なのですね。私たちの団体では資料を作成して病院に提出した後、1年以上経ってから支援が決定したという連絡をいただいたことがあります。病院の場合、手続きが多いせいなのか、スピード感も違いますね。
 
寺田 新たに始める支援の場合は、院内で1年間資料が回っていたという可能性は十分あります。コロナ禍により事務スタッフの業務量は増加しており、支援の受け入れに関してはどうしても優先順位が低くなってしまいます。支援の提供を季節のイベントに合わせるなど、実施スケジュールに期限を設けておくと、話が進みやすくなるかもしれません。
 
光原 コロナ禍の影響も大きいのですね。そのような医療現場の事情を支援団体側が十分に理解したうえで、趣意書の作成をはじめ、できることから取り組みたいです。あきらめないことですね。続いて医療関係者の方からの質問です。「支援はありがたいものの、NPOの方たちが無償で活動を継続できるのか心配です」というお尋ねをいただきました。
 
この質問に関しては、まず私からお答えします。多くの支援団体では寄付金や助成金を資金源に活動を行っていますが、どこの支援団体も資金集めには本当に苦労をしています。お二人もNPOの活動の継続性に関して不安があったりしますか。
 
寺田 病院が支援を受け入れる場合、継続性はとても重要です。何らかの支援をいったん始めると、それが患者さんにとって当たり前になるからです。そのため、支援団体の資金的な問題で支援が中止になる事態はやはり避けたいです。支援を継続していただくためにも、病院のホームページやSNSで支援してもらったことを積極的に発信し、支援団体のPRに協力することも必要だと思います。
 
三浦 当院でも、非公式のSNSで支援の内容を発信しています。多くの人に支援団体の活動を知っていただくことが、私たちにできるお礼のかたちの一つだと考えています。知らない人に活動を知っていただくことも大切にしていきたいと思っています。
 
光原 私たち支援団体にとっては、支援させていただいたお子さんやご家族の感想をフィードバックしていただけることも継続の原動力になっています。
 
最後のご質問です。「私たち支援団体は対等なパートナーとして、お互いを尊重しながら、病気のお子さんやご家族のために何ができるかということを、病院スタッフともに考えられる関係でありたいと願っています。一方で、こうした関係性を病院と築くのは難しいと思っている支援団体が少なくないのも事実です。この点について、どうお感じになりますか」。
 
三浦 病院と支援団体が対話をするといっても、物理的な問題からその時間すらなかなか取れないこともあります。しかし、このような中でも、スモールステップを積み重ねていくことが大切です。小さな積み重ねを通して「この病棟スタッフにはもう少し話をしてもいいかもしれない」とか「もしかしたらこういうことをあの支援団体に頼めるかもしれない」といった関係性が徐々に築かれていくのだと思います。これは、通常の人間関係にも共通することで、一緒に何かをやっていく経験を共有する中で、絆が深まり、時間をかけて信頼関係も育まれていくように感じます。
 
光原 「スモールステップ」というのは、重要なキーワードですね。私たちは、コロナ禍になった2020年10月から子どもの長期入院に付き添っているご家族に、食料品や日用品を詰め合わせた「付き添い生活応援パック」をお届けする活動に取り組んでいますが、当初は院内にポスターの掲示をお願いしても、応じてくださる小児病棟はそれほど多くありませんでした。
 
しかし、開始から2年余りが経過し、2000人以上のご家族にお届けする中で、小児病棟の看護師さんが応援パックを受け取ったお母さんと一緒に中身をご覧になり、家族が喜ぶ姿を目の当たりにすることで、この活動の意義を理解してもらえるようになったと感じています。そして、そのことにより院内にポスターを掲示してくれたり、対象者にチラシを配布してくれたりする看護師さんも増えてきました。小さく始め、一つひとつの支援を積み重ねることによって活動が広がっていくことを、今まさに実感しているところです。
 
今日は病院の実状や課題とともに、寺田さんや三浦さんの貴重な経験と率直なご意見をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。医療関係者の皆さんにも、そして支援団体の皆さんにも、とても参考になるものだったと思います。本シンポジウムでの学びを、これからの連携と協働に生かしていただけると嬉しいです。
 

シンポジウム視聴者の声

本シンポジウムには、医療関係者や患者支援団体、付き添いのご家族を中心に、全国から約100名の方にご参加いただきました。シンポジウム終了後に寄せられた感想を、一部抜粋してご紹介します。

私も病棟でボランティアの窓口を担当しており、日々の業務とボランティア受け入れ対応との両立の難しさを感じていました。三浦さんのお話を聞いて、どこも同じ悩みを抱えながら、でも「子どもとご家族のために」という思いのもと調整されているのを知り、これからもがんばろうと励みになりました。(医療保育士・病棟保育士)

自分たちの活動を発信し続けること、感謝を伝えること、支援を受ける・する側お互いが思い合うこと、小さな積み重ねを大切にすることを忘れずにいたいと思いました。(病児・患者支援団体

「やってあげたい」と言う支援団体のスタンスと、受け入れる側の現状に乖離があることがわかりました。やはり医療現場は治療の場であるので、ボランティアとして何をどう支援するのか、加えて信頼してもらえる実績、あるいは志が必要なのだと思いました。(チャイルド・ライフ・スペシャリスト)

院内レクチームが立ち上がる経緯を聞き、支援したい団体側が頑張るだけではなく、病院側も受け入れの体制づくりが必須なのだと感じました。また、病院側には支援団体と手を取り合うことは大切なのだということをもっと知ってほしいです。マンパワーなどの関係で難しいこともありますが、必ず変わっていけると思います。(病児の家族)

私たちキープ・ママ・スマイリングは、2014年の設立以来、支援活動を行う中で心がけてきたことがあります。それは他者との連携と協働です。
 
なぜなら1つの団体ができることは本当に限られているからです。しかし、他者とコラボレーションすることで、1足す1が、2にも3にもなり、互いの弱みを補い合い、強みを生かし合い、より大きな充実した支援ができるようになると考えています。
 
今後も、病院(小児病棟)と患者支援団体がよりよい協働関係を築いていくための後押しとなるような場づくりに積極的に取り組んでまいります。

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