NPO法人キープ・ママ・スマイリング:病気の子どもを育てるお母さん・ご家族を応援します!

【開催レポート・前編】医療者とNPOのよりよい協働を目指して~互いを理解することからその一歩が始まる~

公開日:2022/09/20

 
NPO法人キープ・ママ・スマイリングは、病気の子どもとそのご家族を応援するキャンペーン「Smiling Family Days~笑顔がつながる日。」(実施期間:2022年5月8日〜6月19日)の期間中の5月22日、「NPO・地域の力を活用して病気の子どもとその家族をもっと笑顔に!」と題し、医療機関とNPOの協働について考えるオンラインシンポジウムを開催しました。
 
小児病棟のマンパワーや財源に限りがある中、いかに患者支援団体や地域と協働して、入院中の子どもとそのご家族をサポートしていくのか――。NPOとの協働に取り組む成田赤十字病院の医師・寺田和樹さんと聖路加国際病院のチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)・三浦絵莉子さんを演者にお迎えしたシンポジウムの模様をダイジェスト版でお届けします。
 

成田赤十字病院は、千葉県成田市にある総合病院です。急性白血病など小児がんのお子さんに対する治療は年間20人ほど行っています。小児がんの治療には、約1年弱の入院期間が必要となります。こうした小児がんのお子さんやご家族への支援に取り組んできた当院の取り組み、なかでも本日は、円滑な支援の受け入れと実施を目指して立ち上げた「院内レクチーム」についてお話しさせていただきます。
 

入院環境が小児に及ぼす影響は非常に強いといわれています。長期入院により筋力の低下をはじめとする身体的な影響だけでなく、子どもたちの成長や発達に本来必要な刺激も減ります。また、外出できないことによる精神的な苦痛もあります。さらに、同年代のお子さんと話すことがほとんどなくなってしまうことによるコミュニケーション能力の低下といったことが、退院後の社会復帰に大きく影響し、その影響は生涯に渡って継続する可能性があります。このような入院環境による負の影響を防ぐためにも、入院中から積極的に支援を行っていくことが重要だと考えています。
 
これまでに当院で実施した支援の代表的な例を挙げると、ハロウィンの仮装パーティーや病棟内での音楽会、病棟と水族館をオンラインで結んだ疑似遠足などがあります。また、バルーンアートの提供、届けていただいた雪を使っての雪遊びなど、子どもたちが日常生活で経験するであろう刺激を特に重視した支援に取り組んできました。
 
このような支援を行う際には、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)やホスピタル・プレイ・スペシャリスト(HPS)が病院内に配備されていることが望ましいですが、病院がCLSやHPSを積極的に雇うことは難しく、医師や看護師、病棟助手が入院中の支援を担っています。しかし、こうした支援を含め、子どもの成長や発達を促す多面的な支援を病院スタッフだけで完結することは非常に困難です。そのため、患者支援団体(以下、支援団体)の皆さんとの協働が重要になってきます。
 

支援の受け入れには病棟スタッフと病院スタッフの連携が必須

しかし、支援団体との協働にあたってはさまざまな課題があります。まず、病棟では受け入れや実施体制が課題になります。例えば、ある支援団体の活動を病棟内で実施したいとなったとき、受け入れや実施の窓口に誰がなるのかということです。
 
以前、数人の医師でそれらの業務を担当し、支援団体との協働を始めてみたものの、マンパワー不足に陥り、支援を継続できなくなったことがありました。支援の継続性のほかにも、医師や心理士など複数の担当者がバラバラに窓口を担った結果、ほかの病棟スタッフが支援の内容をまったく理解しておらず、責任の所在や安全に関するルールが不明確なまま、支援が行われたという問題点も出てきました。
 

 
また、受け入れに関しては病院側にも課題がありました。支援団体から声かけがあったとしても、最初の窓口となる病院スタッフが「当院ではそのような支援は受け付けておりません」と断っているケースがあることがわかりました。安全性の観点から院内に部外者が出入りするのは好ましくないため、この対応は病院スタッフとして正しい判断といえます。しかし、子どもたちの発達・成長の機会をできるだけ失わないように、病院側は支援団体の活動について把握しておくことが必要です。
 
子どもたちに必要な支援をしっかり届けるためには、支援を受け入れる過程において病棟スタッフと病院スタッフが連携することが必須です。連携がうまくできない原因の一つは病棟・病院スタッフともにゆとりがないことが挙げられ、その根底には深刻なマンパワー不足があります。しかし、このような状況に置かれているからこそ、病棟スタッフと病院スタッフは協力し合い、受け入れや実施に必要な作業をうまく分担することが大切になってきます。
 

多職種のスタッフが連携する「院内レクチーム」の役割

当院の小児病棟では、円滑に支援を受け入れ、継続的に実施するために「院内レクチーム」を立ち上げました。このチームは、医師、看護師、病棟助手、心理士、がん相談員といった病棟スタッフのほか、病院事務スタッフ(社会課)もメンバーに加わっています。
 
スタッフが単独で支援を受け入れ、開始した場合、病棟スタッフや病院スタッフの混乱は大きく、支援が困難になってしまうことがあります。継続的に支援を実施するためには、多職種、とりわけ病院事務スタッフを巻き込んだ体制を作ることが重要だと考えています。
 
院内レクチームでは、毎月1回カンファレンスを行っています。このカンファレンスでは、新規イベントの提案を受け、その実現性と安全性を評価するほか、企画書の作成、実施したイベントの振り返り、次回のスケジュール決定を行っています。病院事務スタッフがメンバーに加わっていることで、支援の必要性を病院側に直接伝えることができ、支援を行う際に院内決裁(病院としての許可)が必要かどうかをカンファレンスの場で判断してもらうこともできます。
 

 
院内レクチームの活動について、事例を通して説明します。ある支援団体がスクリーンとプロジェクターを寄贈してくださり、それらを用いて病棟で映画の上映、その際に子どもたちにポップコーンを配りたいという企画が提案されたとします。その場合、院内レクチームで安全性、実現性について十分な検討が行われます。例えば、看護師長が「映画の上映は音の問題があるので、ほかの病棟の迷惑にならないよう、小児病棟以外の病棟師長にも相談してみます」と動き、食品の安全性については「ポップコーンであれば脂質が少ないので子どもたちに提供しても問題ない」と医師が評価します。また、支援団体からの寄贈には契約の締結が必要となるため、院内レクチームが病院に提出する企画書を作成し、実際の契約は社会課が管財課と連携して行います。
 
企画書は、病棟スタッフと病院がイベントの内容を共有するためにも必要なものです。実施目的、参加対象者、実施日時のほか、実施スタッフの欄に「院内レクチーム」と書かれていることが重要になってきます。この一文があることで、病院公認のイベントであることが病棟の管理者を含め、ほかのスタッフにもわかるようになります。
 
イベントの開催後は、翌月のカンファレンスで振り返りを行います。「スタッフの負担が少ないから、これなら定期的にやってもいいですね」といった具合に、実施したうえで継続性についても判断し、次回のスケジュールを決定していきます。毎月カンファレンスを行っていると、実施時のマンパワー不足が予測されたときも、必要な人員を調整するなど、すみやかに対応できます。
 

 
また、活動を受け入れるだけでなく、支援団体への報告やお礼も大切です。支援団体の活動は、それが認知・評価され、寄付が集まって初めて実現することができるものだからです。医療者の方にはぜひ活動報告や御礼をお願いしたいと思います。
 

聖路加国際病院は、1970年以来、約50年間にわたってボランティアを受け入れてきた歴史があります。そのため、寄付に対する理解や、ボランティアの受け入れ体制は整っている病院だと思います。本日は、当院が患者支援団体(以下、支援団体)をはじめ、ボランティアの皆さんとどのような関係づくりを行っているかということをお話したいと思います。
 

当院の小児病棟では院内のボランティアグループと、聖路加国際大学の学生ボランティアは病棟の看護師長が管理しており、院外の支援団体よる定期的なボランティア活動や、イベントに合わせて行われる単発のボランティア活動は、「こども医療支援室」が受け入れ・実施の窓口となっています。
 
コロナ禍以前は、絵本の読み聞かせや動物介在療法、コンサートのほか、クリスマスや夏祭りといった季節のイベント、移動水族館など、さまざまな支援活動が実施されていました。コロナ禍以降、訪問を伴う活動はすべて取り止めとなり、キープ・ママ・スマイリングさんが行っている付き添いのご家族にお弁当を提供する活動だけが継続できています。
 
現在は、オンラインでの支援活動や、寄付や寄贈を受け入れるかたちの支援が多くなっています。支援団体側から声がけをいただくほか、病院側からもこれまでに支援活動を行ったことがある団体にオンラインでの実施をお願いすることもあります。
 

受け入れの流れ〜子どもの安心安全がもっとも大切〜

当院の受け入れの流れは次のとおりです。受け入れ窓口は支援の規模によっても変わり、小児科だけで実施できる規模の場合はこども医療支援室が窓口となり、病院全体に関わる活動の場合はボランティアオフィスが窓口となります。こども医療支援室の室長は小児科医が務め、メンバーには保育士、チャイルド・ライフ・スペシャリストも含まれています。このチームで受け入れ可能かどうかを判断し、新しい支援団体の活動を受け入れるときは、その団体の活動実績も参考にしながら、支援内容や実現の可能性などについてチームで検討します。
 
そして、こども医療支援室が受け入れ可能と判断すると、次は小児病棟で行われる多職種カンファレンスで支援の実施にあたっての注意点などを検討します。一方、小児病棟外でイベントを実施する場合は、関係各所に連絡し、場合によっては稟議書を書くこともあります。
 
さまざまなボランティア活動がある中、実施にあたっては子どもの安心と安全を守ることをもっとも大切にしています。ささいなケガが命取りになることもあるため、院内の安全基準は一般のそれよりも厳しく設定されています。また、お子さんやご家族のニーズを大事にするうえで、この活動は誰のために行っているのかということを常に考えることも必要だと思っています。
 

 

現場の声に耳を傾けて一緒に考えてくれる支援団体とつながりたい

このように小児病棟では大事にしていることがあるため、私たち現場のニーズと支援団体が実施したいことがときに一致しないこともあります。その場合は、支援団体の方にどのような支援を行いたいのかをよくお聞きすることを大切にしています。
 
一方で、医師や保育士、CLSは目の前にいる子どもたちの治療やケアが優先されるため、支援団体への対応を迅速に行えないことがあります。こちらの負担が少ないと思われがちなイベントのチラシを配るだけでも、院内にはさまざまなプロセスがあります。不公平にならないようチラシを届ける対象者を決め、チラシの内容を確認します。院内に掲示する場合は、病院の許可が必要で、その手続きを行ったうえで掲示します。そして、チラシを配布する際も、病室に入る際などお子さんや家族の様子を伺いながらタイミングを見計らって渡すので時間がかかります。私たちは、こうした一連の対応を通常業務の傍らに行っています。
 
このような事情がある中、支援の実施にあたっては病院側の負担が少ないと大変助かりますし、受け入れやすくなるのではないかと思います。支援団体の皆さんが現場のニーズにも耳を傾け、負担の少ない方法を一緒に考えてもらえると本当に有難いですし、そのような配慮のある支援団体の方たちとつながっていけたら、お子さんや家族が必要とする支援がさらに多く届けられると考えています。
 

目に見えるかたちで感謝を示すことが大切

支援団体の皆さんは、大切なパートナーであるということも忘れずにいたいと思います。学生時代に「ボランティアのことを当たり前にいる存在だと思わないようにしなさい」と教わりましたが、当たり前になり過ぎると敬意を持って接することを忘れがちになります。
 
また、支援団体の皆さんとは“正直なコミュニケーション”をとることが大切だと感じています。医療者ではない人が現場の事情がわからないのは当然のことなので、たとえ言いにくいことであっても正直に伝えるようにしています。支援団体の方に現場の事情を理解してもらうことで、次につながるような改善ができると考えています。
 
そして、支援団体の皆さんに対して一番大事なのは目に見えるかたちで感謝を伝えることだと思っています。キリスト教精神に基づく当院では、支援団体や寄付者の皆さんにクリスマスカードを送っています。また、感謝の気持ちをSNSで発信するのも効果的で、こども医療支援室の非公式FacebookやInstagramを通して発信しています。
 

 
また、当院の中央のボランティアオフィスでは院内のボランティアさんに対し、ボランティア活動を長く継続してくださった方への感謝状や、活動時間の長さに応じたバッチを記念に差し上げています。これらのバッチはとても喜ばれているようです。さらに小児病棟では、独自に支援団体の皆さんへの感謝の気持ちの伝える場、普段は会うことのない支援団体同士が互いの活動を知り、情報共有できる場を作りたいと考え、「ありがとうの会」というイベントも始めました。この会は、私たち医療者にとっても学びの場となっています。準備に少し手間がかかったとしても、スタッフが楽しみながらできることは続けられていますので、感謝を伝える活動にはこうした視点も大切だと思います。
 
支援団体やボランティアの皆さんのことを考えるとやはり「やってよかった」という思いがないと活動を続けられないと思います。医療者が感謝を示すことが、支援団体が活動を継続できるモチベーションとなり、よりよい関係を築いていくことにもつながっていくと考えています。
 
第2部では、参加者からの質問に答えるかたちでパネルディスカッションが行われました。
第2部の模様はこちらをご覧ください。

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